2023.07.23 INTERVIEW
『Rain』にまつわるアーティストとの対談シリーズ。
今回は、大巻伸嗣と唐津絵理による対談の連載最終回となるvol.3をお届けします。
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唐津:先に明確なコンセプトがあって、そのテーマに向かって求心に創作する現代美術のアーティストも多いと思いますが、大巻さんはむしろ逆のアプロ―チで、もっと直感的なところから始まって、創作プロセスを辿っていくうちにクリアに作品の全貌が見えてくるのだな、と感じています。また今回『Rain』の創作では、ご自身の作品もその一部として、さらに時空間全体に対してディレクター的な視点を持たれていて、客観的に引いたところから世界を見ている印象を抱いています。
『Rain』に関わってみて、ご自身で新たに発見されたことや面白かったことなどありますか?
大巻:これまでの舞台の美術というと、美術になってしまう時もあるんですよね。今回は、今までの作り方とは全く違って、こちらも最初の段階から提案することが多く、作品に関して、他者によって操られる文楽の話や、舞踏の話をしたりもしました。自分の作品以上に、どのような作品にしていくかについて話をしたような気がします。それは今回が初めてです。『Rain』は、僕にとって、個人の作品ではなく、みんな作り上げていく作品で、今もまだ固まらないものだと思っています。通常の舞台は、本番に向けて固めていくものだと思うんのだけれど、今回は、舞台も固まらずに最後の最後まで動かしていくものなんだなというところが新しい感覚で、自分の制作に近いところを感じています。
唐津:コラボレーションと言いながらも、通常の異ジャンル間の共同制作と言われているプロジェクトでは、ここまでアーティストどおしが深く関わり合ってできていくことはあまりないです。なので、それぞれがどこまで要求していいんだろうとか、どこまで受け入れるべきだろうということをすごく悩んだのではないかと思っていました。その分、お互いに大変だったんだろうなと思うんですけど、それだけ時間をかけて積み上げてきたものになってきていると感じています。実際に、3月の愛知公演をご覧になっていかがでしたか?
大巻:何よりも嬉しかったです。何もない段階から竜さんが試しに踊るところを見たりして、「それが本当にやりたいことなのか?」みたいな話をしていくことをしてきたので。呼応しながら悩みをぶつけ合うみたいにして、本当にみんなで支えながら、こうやって作品ができてくるのことはなかなかないです。裾野を広げた分、積み上げられるものは高くなるんじゃないかな。一人でやっていくとそこまで高くは積み上がらない気がするので、この先も進化していくと感じています。
ダンサーも新しいメンバーが加わったので、その違いも期待しているところです。前の線をなぞるような感じではなくて、新しいものにできればいいなとも思いました。僕らの解釈も変わっていって、舞台も変わればいいのではないかなと言える舞台だと思っています。プログレスがずっと続いていくようなワークインプログレス的なものが、ダンスにあってもいいのではないかなと思っているのですが。
実は、『Liminal Air』に人が絡まって、中から出てこられないという夢を何回も見て、不安になったことがあったんですよ。けれど、愛知公演を見て、やはり『Liminal Air』にして良かったと思いました。客席位置によっては、舞台上で見えない場所も出てきてしまうのですが、その分観客の方々には1回だけではなくて、何度もいろんな場所で見てもらうといいなと思っています。
唐津:そうですね。展覧会の会場なら、『Liminal Air』の中に入って体験をできると思うのですが、舞台だと触ることはできないので、観客の方からは美術の中に入りたいという感想をよく聞きました。先日唯さんにインタビューした時も、中に入ると光が差し込んできて、すごく美しいとおっしゃっていました。
大巻:キラキラっとした感じの光が溶けていくと、水の中にいるような感じになるんで、不思議な風景が生まれます。影に溶かされていくというか。
唐津:音楽や照明などについて感じていらっしゃることはありますか?
大巻:音楽については、皆が過剰にいきそうなところを抑えてもらっていて、すごいそれが良かったです。音や光は与えるものが強くて、イメージを強制してしまうことになりかねない。強制してしまいがちなところをどのように開放できるのか、イメージを広げられるものになり得るかということがすごく大事なところだと思います。
僕の作品も光によって見え方が全く変わるので、ダンサーたちにとっても、観客にとっても重要なものになると思います。光や音などをどう混ぜ合わせるかということが空間全体でできたら成功だと思います。ただ、会場によって全く変わるかと。少しでも引くということが大事だと思っています。
唐津:お客さんが入れる余地を作らないと、押し付けみたいなものになってしまいますよね。『Rain』は体感していただきたいと強く思っているので、観る人のための余白は大切だと思っています。
大巻:ダンスさせられている感じになるのではなくて、ダンスが生み出していくようにならないといけないと思います。ダンスが壊していくとか、ダンスがかき混ぜるとか、その舞台の運動体をより強くしていくものであったら良い。音や照明は、それを加速させていく一つの道具だから、それを加速させるように美術も一緒に手伝えるといいなと感じています。ダンサーがどのよう反応していくか楽しみです。
唐津:最後に、見に来てくださる方、あるいはまだ見ることを迷っていらっしゃる方に、メッセージをお願いします。劇場でどのようなことを感じていただきたいでしょうか?
大巻:何よりも一回、自分の身体で体験してもらうことが一番大事だと思っています。やはり、映像で見ればいいという訳にはいかなくて、その場の空気、その場の変化と一緒になって、自分自身が溶かされていく、混ぜられていくような感覚を味わってもらえるといいなと思います。
ダンサーも、光も音も含めてすごく融合した舞台になっていて、それは現場でしか味わえないので、ぜひ本物を見て感じてもらえたら嬉しいです。
唐津:たくさんのお話をありがとうございました。