2023.07.21 INTERVIEW
『Rain』にまつわるアーティストとの対談シリーズ。
今回は、米沢唯と唐津絵理による対談をお届けします。
唐津絵理(以下唐津):本日は、お時間をいただきありがとうございます。再演ツアーに向けたリハーサルが始まりましたが、『Rain』のクリエイションで印象的なことについて教えていただけますか?
米沢唯(以下米沢):DaBYに来て、自ら発信することを要求されたことが一番大きいです。自分がどう思っているのか、どういうものを創りたいのか。私はこれまで、とりあえず踊ってみることが多く、私自身の解釈や意見は踊りで表現すればいいと考えていて、言葉はあまり使いませんでした。今回、言葉を使ってコミュニケーションを取るリハーサルだったことが面白かったです。
竜さん(※演出・振付 鈴木竜)の人柄もあって、きちんと話を聞いてくださる。かつ、「自分はやっぱりそうは思わない」ということもおっしゃるので、安心して意見を言えました。再演のリハーサルが始まって、竜さんの中で「こういうものを創りたい」ということがより明確になり、パワーアップされていると感じるので、夏のツアーに向けて、面白いものができそうだなとわくわくしています。
竜さん自身が素晴らしいダンサーなので、動いて見せてくださるときの情報量がすごい。賢さん(※中川賢)というスーパーダンサーもいらっしゃるので、動きを見るだけでも、キャッチできるものがあります。
唐津:本日のリハーサルでは、自分が出演しないシーンでも、客観的な立場からいろいろな意見言われていたので、前回のリハーサルよりもさらに主体的に参加してる印象がありました。
最初の頃のお話に戻っていきたいと思いますが、実は5年くらい前からサマセット・モーム原作の「雨」を作品化する構想があって、メインのキャラクターであるトムソンの役はどんな人が良いのだろうとずっと考えていました。その時に唯さんの『マノン』を見て、唯さんが良いかもしれないと。唯さんが愛知県出身だということやバレエダンサーでありながら、様々な作品を見ていたり、コンテンポラリーダンスというものに対しても、すごく貪欲に向き合っていらっしゃるということも知っていったこともあります。それが、ちょうどコロナのタイミングで、そこにこの作品を舞台化するリアリティが生まれました。
米沢:ありがとうございます。私は、中学生、高校生の時から存じ上げている唐津絵理さんとお仕事するのであればと思って、お引き受けしました。
唐津:ありがとうございます。大変光栄です。
美術はいかがでしたか? 美術と踊る中で感じたことがありましたら教えてください。
米沢:大好きです。とても美しい。リハーサルの時、他の人たちが踊っている様子を前から見ていると、美術が雨や壁など様々なものに見えて、表情豊かだなと感じました。美術に上から光が当たると、床に雨の影が出てきます。照明がとても繊維なので、雨の降りしきる様が現れて、その美しさにぞくぞくしました。ただ、美術が強い分、苦労することは多かったです。汗をかくと、体にまとわりついて全部くっついてしまうので、絡みついたときに、踊りながらどう外していくかなど、何回も竜さんと話し合ったり、ダンサー同士で捌き方を研究したりしました。
唐津:美術の紐がまとわりつく感じが、雨がまとわりついてくるようにも感じられたり、身体の感覚や踊り方が変わったりはしましたか?美術によって身体や動きが変化していうことも狙いのひとつだったと思います。
米沢:ありました。もはや美術も振付の一環みたいな感じでした。
唐津:音楽はついてはいかがでしょうか?最初は既成の音楽を使っていたのですが、途中から音楽家のevalaさんに参加していただいて、全編オリジナルの音楽に変わりました。『Rain』では、いわゆるダンスとそれ以外の通常の関係とは違って、ダンス・音楽・美術も一つの空間を作り上げるというような意図で進めていました。通常の音楽とは違う感覚がありましたか?
米沢:だいぶ違いました。音が立体的になっていて、音楽の中に入ってる感じがしました。どこから聞こえてくるわけでもなく、「音楽がある」みたいな感覚は新鮮でした。雨の音を入れている訳でもないのに、雨の音が聞こえるような音楽がとても面白かったです。カウントがあまり取れない分、体感で動くしかないので、回数を重ねて、曲と自分が一体にならないと踊れない感覚があり、それも楽しいプロセスでした。
唐津:他のダンサーたちについては、どのように感じていらっしゃいますか?
米沢:毎回感動しながらダンサーたちを見ていました。リハーサルへの真剣さ、真摯な姿勢、自分の踊りへのプライド。すごく刺激を受けました。バレエ団では、全てが守られている半面、どこか受け身だったのではないかと反省しました。『Rain』のダンサーの皆さんは、自分から関わって作品を変えていく強さがあって、踊っている時のイキイキとした姿がとても好きでした。
唐津:バレエダンサーとは違う環境で、踊る場所を自分から求めたり、自分から作品に関わろうとしない限りは、居場所を作ることができない、ある意味フリーランスのダンサーたちの思いが、そのようにさせていくのかなと感じています。ヨーロッパのダンスカンパニーの状況をすごく羨ましがられることもあるけれど、ある意味、サラリーマンダンサーみたいな言い方をされてしまうこともあってそのバランスは難しいと思います。しっかり守られて、対価を払われなくてはいけないのだけれど、でもそれに安住して逆にルーティーンの踊りになってしまうみたいなこともありますよね。そういう意味で言うと、今DaBYに関わってくれているダンサーたちは、すごいアグレッシブで、貪欲な人たちだと思うんです。
米沢:自分の裁量で生きている感じがとても格好良いです。
唐津:先日、『白鳥の湖』(2023年6月、新国立劇場 オペラパレス)を拝見しましたが、本当に素晴らしくて、唯さん、本当に鳥みたいでした。化身というのかな、演じてるのではなくて、そのものとしてあるという印象を受けました。今いろいろなダンサーがいらっしゃって、いろいろな解釈があってもちろんどれが正解ってわけでもないんだけど、唯さんの場合は、本当にそのものになれるというか、言い方はおかしいかもしれないんですが、「舞踏的」だと感じています。そのものとしてあるというか、そのものになってしまうみたいな「帰依的」なあり方をするすごく珍しいバレエダンサーだなということを思いました。先日、コンテンポラリーを踊ったから、クラシックがまた面白く味わえたということもお話しされていたと思うんですけど、そこについて少し詳しく聞かせていただけますか?
米沢:クラシックでは、ポワントでバランスをとったり、ターンしたりするため垂直な軸がすごく大事です。コンテンポラリーになると軸を崩していかなくてはいけないのですが、その分、身体の中に余白が生まれる感じがするんです。その余白が大きくなればなるほど、クラシックを踊った時に、そこに色をつけていけるみたいな、今まで手が届かなかったところに、少しだけ手が届くようになる感覚があります。私の中では、コンテンポラリーダンスに取り組むと、身体だけではなく、自分の心の中にも、余白が増える感じがあります。再びクラシックを踊るときに軸を戻すのは大変なのですが、それは私の仕事なので。(笑)だけれど、いろいろな挑戦をして、余白を増やしていきたいと思っています。
唐津:では最後に一言、今回見に来てくださる方にお伝えしたいことはありますか?
米沢:初演とはまた違う一歩を踏み出せたらと思います。精一杯力を尽くして良い舞台にしていきます。楽しんでいただけますように。
唐津:ありがとうございました。